大学4年目になる春思う

気付いてたら3年も過ぎてた。

やばいやばい、何もしてない。

同期はみんな就活に追われている。そういえばと思い出して慌てて取り出したようなスーツを着て、学生らしい髪を整え、全身を黒に染め上げた。

自分のやりたい仕事ってなんだっけ?そもそも自分は何をしたいんだろう?欲しいのは金か、時間か、幸せか?自己分析?人生設計?

なんて疑問を考えながら、似合わないビジネスバッグを抱え、とりあえず就職説明会なんかに行っている。

3月1日に就活解禁となり、毎年恒例の就職競争が始まった。

 

僕は1月に大学院に進学すると決めた。実は院に行くことにあまり乗り気ではなかった。

今は景気がいいし、学部卒も院卒も仕事内容が変わらないと聞く。まして、院に行ってしまうと卒業がオリンピックの次の年。景気は悪くなり就職なんて簡単にできないかもしれない。特に院に行くメリットは見つからないし、そんなに遊んでばかりもいられない。両親にもそんなに勉強ばかりして何になるんだと言われ始めた。

僕もそんな風に思っていた。

 

そんなある日、僕にとって大きな出来事があった。いや、一問と言った方が正しいかもしれない。

 

就活中よくこんなことを聞かれるだろう。

「あなたの特技は?」

「あなたの個性は?」

なんだろうな、答えることができない。

好きなものは増えた。自転車、カメラ、旅、温泉、コーヒー、音楽、布団、たくさんある。

けど、僕は僕の特技や個性を知らない。勿論、表面上の薄っぺらいそんなものだったらいくらでも言える。自転車の事なら割と詳しいし、一人旅だって慣れている。そこら辺の事なら普通の人より詳しいしそれなりの自信もある。けど、自信を持って大きな声で言えるそれを持っていない。

元気があります!ポジティブです!やる気なら負けません!クリエイティブな発想をします!

よく聞くこんなもの、特技でも個性でもない。誰でも言えるし誰もが言う戯言だ。

企業がそれをどう思うかなんて好きにすればの一言で終わる話だけど、自分がこんなこと言っていた日には誰かに右頬を殴ってもらおう。

 

と言うのも、何故なら1月にあの問いが放たれたからだ。その日、問いは夢を語った僕に容赦なく石を投げつけた。

「なぜ君でないとダメなのか?」

「なぜ君以外の人間ではダメなのか?」

うるせぇと殴ってやりたいと思った。今でも思い出す。あのジジイは僕に僕の個を問うたのだ。

答えることができなかった。悔しかった。夢を否定されたと思った。拳を握り、歯を食いしばった。

(勿論この時、口では適当なことを答えてはいるが、本当の答えを僕自身わかっていなかった)

 

あのジジイは問いはこう。

「なぜ君でないとダメなのか?」

つまり、お前がやるべき理由、お前でないといけない理由があり、それはお前がお前であるという何か(=個性)があるからだと、そしてそれを示せと。

(哲学的な話は置いといて)この質問にどう答えればよかったのか僕なりに探してみた。僕以外ならどう答えたのだろう。

例えば、漫画「食戟のソーマ」では、幸平創真と四宮小次郎(スピンオフ)が自分の料理に出会うまでが上手く描かれている。彼ら以外もそうだが、得意料理や好きな料理に、情熱や思いがあり、さらにアイデアと斬新さを加えていき、自分以外の誰も作れないオリジナルの料理を作り上げていく。幸平創真の場合は定食屋として、四ノ宮小次郎の場合はフレンチと日本文化(特に野菜)の融合として、自分の特技や情熱を個性に変えていた。

例えば、落合陽一の話からは、AI時代に生き残る人間の仕事について考えてみる。高い専門性や独自性、またクリエイティブなものはAIやロボットには変わることができないと指摘している。僕はこれを(AI時代の)個性だと考えた。また、情熱(モチベーション)や夢(やりたい事)はロボットやAIには真似できず、人が持つ最大の特徴であり、矛となる。

つまり、好きや得意なだけではダメで、それに情熱やアイデア(創造性)も必要となる。そして、自分の特技や情熱に気づき、それを自分の武器として戦えるようなものが個性なのではないか、と解釈した。

 

僕は夢に対してそういう個性を自分自身に見出せず、作ることもできなかった。なぜ僕でなければならないのかわからなかった。

 

数十マス戻った気分だ。

僕は何をしようかと自問自答が続いた。

夢はある。けど、今はまだ残念ながら上手くそれを言語化できない。やりたい事もたくさんある。けど、それも言語化できない。

留学の試験には落ちた。今まで思っていた事もやりたかった事も全て有耶無耶になった。分解されバラバラになった。

けど、夢の軸は変わっていない。そのイメージは未完成だが着実に育っている。

 

漫画「3月のライオン」の島田開のこのシーンを思い出す。

タイトル戦で吹っ飛ばされた人間はみな一度は調子を崩す。それはね、当たり前。「このままじゃダメなんだ」と番勝負の間に徹底的に思い知るからだーーーそして自分を一回バラバラにこわして再構築を試みるからだ。また一からな。みんなそう。ま、みんなって「経験したヤツは」って事だけどね。

ハガレンで言うならば、理解・分解・再構築だ。僕は島田さんのようには強くない。勿論エドワード・エルリックのようにも。ただ僕も嫌という程「このままじゃダメなんだ」を思い知った。

バラバラにはなったがかけらは残っている。軸もある。曖昧だが夢もある。再構築しよう。

 

大学生活は4年目となる。まだ桜は咲いていないが春らしい季節を感じられる。順風満帆とはいかない。

これから研究やら就職やら当面様々な困難や問題を抱えることになる。辛いなぁ、面倒くさいなぁというのが正直な感想。

でも、今のところとりあえず大学院に進み、少しでも専門性を身に付け、その間に自分の個をつくる、そして自分オリジナルの武器を手に入れる、それしかない。勿論、これは先延ばしに過ぎないことは知っている。いつかまたあの問いに答えねばならないことも。

あのジジイを、あの問いをぶん殴ってやると、この春決めた。